オンラインショップで洋服を購入する人が増える中、企業では顧客のサイズに合ったものを提供するボディ採寸技術の導入が進んでいます。ゴールドマン・サックス証券投資調査部長の河野祥が、企業や消費者にもたらすメリット、そして小売り以外の分野への応用について解説します。
ボディ採寸技術とはどんな技術で、なぜ注目を集めているのか。
河野:ボディ採寸技術は、プロによる採寸なしで、消費者が自ら正確に体のサイズを測ることのできる新しい技術で、オンラインで衣料品を購入する人が増えるなか注目が集まっています。一部の主要経済国ではアパレル市場におけるeコマース化が大幅に上昇すると予想されており、英国では2016年時点の22%から2023年までに42%、日本では同じく11%から24%に上昇する見通しです。一方アパレル通販業者は、洋服を買う前に試着ができないという消費者にとって最大のボトルネックを解消し新たな成長を実現すると同時に、営業費用の削減を目的にボディ採寸技術を導入しています。
具体的にはどのような技術か
河野:消費者がオンラインショップでサイズのあった洋服を選んだりオーダーメード製品を発注したりするうえで便利なアプリがすでに普及しています。その一つ、「フィット・ガイダンス・ソリューション」というオンラインツールは、消費者がボディサイズのほか、好みのフィット感やスタイルに関するいくつかの質問に答えると、アルゴリズム解析や小売店独自のサイズチャートに基づいて比較され、消費者に合ったサイズを推奨してくれます。消費者自身の体格をオンラインで再現したバーチャルアバターを使った「試着」や、購入を考えている商品を手持ちの洋服と比べるといった機能を備えたものもあります。
また、3Dボディスキャナー、採寸用スーツなど、より採寸精度の高いハードウエア・ベースの採寸方法もあります。例えば、2017年に日本のアパレルeコマース業者のZOZOは、センサーを内蔵したスパンデックス製のボディスーツを着て正確な採寸を行う独自の採寸システムを立ち上げました。しかし、こうしたハードウエア・ベースの採寸方法は、ビッグデータ、AI、機械学習を利用した、より低コストで便利な採寸技術にとって代わられつつあります。シャツメーカーのオリジナルスティッチは、利用者の年齢、身長、体重、性別およびスマートフォンで撮影した2枚の写真に基づいて全身の最大16ヵ所を採寸する「ボディグラム」技術を開発して、企業向けにも提供しています。このツールを使えば、画像処理技術によって写真上の身体を識別し、機械学習により体形を推測し、独自のアルゴリズムにより様々なサイズを測ることができます。人類学的研究により蓄積されたビッグデータを利用して、採寸プロセスをさらに高度化する写真解析ツールもあります。3Dセンシング機能の備わったスマートフォンが普及するにつれて、カメラを使った採寸技術の精度は向上していくと予想しています。
オンライン小売業者にはどのような影響を与えることになるのか
河野:サイズの合った洋服を見つけることができるようになればオンラインショップを通じたアパレル売上高の拡大に貢献する可能性がありますが、他にも応用できます。アパレルメーカーは、採寸を通じて膨大な量のデータ収集が可能になります。このデータを使って商品のデザインやサイズを最適化することができれば、顧客満足度の改善につなげられる可能性もあります。また、こうした技術を取り入れることにより、オンライン小売業者は返品率の低下を期待でき、その結果、輸送費を削減できるかもしれません。さらに、返品過程での炭素排出量の減少を通じてアパレル小売業者やアパレルメーカーは自社の環境負荷を削減することもできます。廃棄処分される売れ残り商品も少なくなるでしょう。
この技術の他の利用法はあるか
河野:高精度の採寸データが利用可能になれば、アパレル以外の分野でも新たな事業機会が生じるのではないかと考えています。小売りセクターでは、顧客のサイズに合った商品の製造が可能になることで、オーダーメードのマットレス、その他の家具類など、これまでにない形のカスタマイズが進む可能性があります。また、採寸データを本人確認に利用することも可能で、セキュリティや入退室管理等のアクセス・コントロール分野への応用の道も開けます。フィットネス分野でも、ダイエット中の人やフィットネス愛好家用に、減量や筋力アップの進捗状況をビジュアル化できる3Dボディスキャンアプリを展開してるスタートアップ企業もあります。カスタマイズされたソリューションの普及が進むにつれて、さまざまなセクターで新たなサプライチェーンが台頭し始める可能性があります。
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