M&A、2020年の展望

28 01 2020

日本企業が関わるM&Aが活発です。2020年の展望についてゴールドマン・サックス証券投資銀行部門M&A統括責任者の矢野佳彦が解説します。

 

2019年のM&A市場の総括は?

世界全体のM&Aは、米中貿易戦争、英国のEU離脱問題に端を発した不確実性の高まりもあって減少に転じましたが、日本企業関連のM&Aはクロスボーダー、国内案件の双方で大型案件が相次ぎ、取引件数で史上2番目、取引金額で史上3番目を記録し、2015年以降の高水準が続いています。

また2019年は国内企業同士のM&Aが金額・件数ともに日本企業による海外事業の買収を上回ったことも特筆すべきでしょう。これは2013年以来のことで、国内M&Aの活発化を如実に物語っています。

 

日本企業関連のM&A取引件数(出典:リフィニティブ)

 

日本企業関連のM&A取引金額(出典:リフィニティブ)


盛況なM&A市場のドライバーは何か?

少子高齢化や国内市場の成熟による需要の減少、技術進歩等による業界構造の急速な変化など、日本企業が依然として直面している構造的な課題が、成長の活路を目指した国内外のM&Aの増加につながっています。

こうした中、M&Aに関する知見を蓄積した企業も増えており、経営戦略上の手段の一つとしてM&Aを捉える動きが確実に定着しています。「通常の事業運営では現在の経営課題には対処できない」という考えを持つ企業経営者が増えているほか、「M&Aを活用した事業ポートフォリオの最適化」という考え方が幅広い業種で浸透しつつあります。

同時に、ここ数年のコーポレートガバナンス改革などが株主利益に対する意識を高め、M&Aの動きを活発化させています。日本企業が事業の選択と集中を進める動きと相まって、親会社とその他の株主の利害関係が対立しかねない子会社上場を解消する動きも加速しています。また何らかの原因で株価が低い状態にある企業に対しては、アクティビスト投資家が自社株買いやM&A、ノンコア(非中核)資産の売却を要請するような事象も増えてきています。

国内外のプライベート・エクイティの役割も注目すべきでしょう。企業の「最後の砦」と位置づけられてきたプライベート・エクイティは、企業の戦略的なパートナーとして認められるようになりました。経営効率を意識した上場子会社の売却や既存事業の一部切り出しが継続的に行われることが予想されるなか、プライベート・エクイティが有力な買い手となり、資産価値を向上させた後に売却するというプロセスによって、国内M&A市場が一層活発化するでしょう。


2020年の展望は?

日本企業によるM&Aは海外買収・国内再編のいずれにおいても引き続き高水準を維持すると考えています。

2020年には5Gの本格サービスが開始され、IoTの普及も含め、様々な技術革新が既存の産業構造の変化を加速させると考えられます。こうした中、日本企業は新たな技術の取り込みを目的とするM&Aのほか、環境変化に対応するための「選択と集中」を目的としたM&Aを引き続き追求する可能性が高く、業界内の合従連衡や、事業体そのものを変えていくようなトランスフォーメーショナルな大型のM&Aが起きることも十分に考えられます。

プライベート・エクイティやアクティビスト投資家が日本でも完全に定着している状況を勘案すると、これらの市場参加者が、企業の「集中と選択」の動きとどのように絡んでいくのか、取引増大の起爆剤になるのかどうかも注目されます。


M&A市場が冷え込むリスクは?

通商摩擦や不安定な国際情勢の中でも、2020年は日本を含め世界経済のプラス成長が見込まれ、かつ資金調達コストが歴史的に低い水準で推移していることは世界のM&Aの下支えになっています。しかし、地政学的リスクの高まりはM&Aを抑制する方向に働きやすいため、中東の不安定な状況や11月に予定されている米国大統領選挙の見通しやその結果によっては、市場全体が動揺したり特定の産業が大きな影響を受けたりする可能性には留意する必要があるでしょう。

 

 

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