広がるオンライン学習

25 03 2020

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大する中、米国・ヨーロッパ・アジア各国の大学では、教室での授業を取りやめオンライン学習を導入し始めています。これを機に遠隔教育は長期的に普及するのか。米国を中心に急速に拡大するこの分野について、当社米国の投資銀行部門で教育業界を担当するAdam Nordinが解説します。

 

オンライン学習を活用している教育機関が増えているが、セクター全体にとってどのようなインパクトがあるのか。

(Adam Nordin) : COVID-19によって、大学など高等教育におけるオンライン学習の利用が大幅に加速する可能性があると考えています。以前は、オンライン学習を取り入れるかどうかの決定権は大学側にありました。教室での学習に比べ質が低く、学習効果も高くないのではないかと、多くの教育機関は完全オンライン型授業の導入に当初は不安を抱いていました。しかしテクノロジーが進歩し、インターネットやパソコンに慣れ親しんだ学生がオンライン学習を希望するようになった結果、教室での授業に一部オンライン学習の要素を取り入れたり、あるいは従来の課程と平行して、外部のベンダーによるオンライン授業を実施したり、ハイブリッド型を採用する大学が増え始めました。多くの大学が初めて、学部生全員の学習をすべてオンラインに切り替える必要性に直面していますが、長期的にみて今後オンライン学習の導入が劇的に進む可能性があると見ています。

オンライン学習業界はどのように進化してきたのか。

(AD) : 初期のオンライン授業は、通信インフラやデータ圧縮技術が不十分だったため、リアルタイムでの双方向のコミュニケーションは困難でした。それでも、オンラインで人は時間と場所を問わず学習することができるようになり、社会人など普段通学できない人を対象とした新たな市場が生まれました。今は通信インフラの向上やクラウドベースのコラボレーションツールにより、リアルタイムの仮想教室が実現し、オンライン学習は教室での学習と同等、場合によってはそれ以上の学習体験を得られると思っています。また学生はテクノロジーを活用したより柔軟な学習スタイルを好むため、学生が主体的にオンライン学習の導入を大学に働きかけてもいます。今後、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)が普及すれば、教室にいる学生とオンライン授業に参加している学生を、仮想空間で連携させることが可能になるでしょう。月面のような仮想空間で重力について学んだり、アバターを使ったりなど、従来の教室型学習にはない遊び心を効かせた環境で楽しみながら学ぶことができます。

オンライン学習やエドテックセクターに対する企業と投資家の見方は。

(AD) : この分野への投資は過去3〜5年で大幅に増えています。エドテック関連のテクノロジーが高度化しただけでなく、テクノロジーの導入を妨げてきた構造的な障壁も低下してきました。以前、投資家はエドテックをニッチ産業と見ていましたが、今は投資対象としての地位を確立しています。年金基金やソブリンウェルスファンドなどの長期投資家も長期的な成長を期待してこの分野への関心を高めています。

オンライン学習の導入を加速させている要因は他にあるのか。

(AD) : 第一に、今の若い学生はオンライン学習を当たり前のように期待しており、進学する大学もこの基準で選んでいます。第二に米国の多くの大学では、奨学金などを差し引いた学費による純収入がここ10年減少しており、財政的に逼迫した状況に陥っています。このため、高額なインフラを必要とせずに、入学者数と学費の純増につながる資本効率の高いソリューションがかつてないほど大学に求められています。オンライン学習の導入は今や教務局長だけでなく、学長やCFOが直接関わる事項になっています。最後に、ソフトウエアやデータ分析ツールなどのテクノロジーがヘルスケア分野をはじめ様々な業界で積極的に採用されてきたのと同じように、高等教育機関も今後これらのテクノロジーを組織全体において活用する可能性があると考えています。


オンライン学習をさらに効率化させるテクノロジーは。

(AD): 端的に言うと、データ分析、機械学習、人工知能が挙げられると思います。これらのテクノロジーを活用して、生徒と教師の両方がカスタマイズされた豊かな学習体験を得ることができます。何を、なぜ、どのように取り組めば成績が上がるのか、学習評価システムが詳しく教えてくれます。ライブ中継で授業を行う教授は、学生一人ひとりの成績や課題、注力分野などの詳細なデータを使ってより個人的な指導ができます。

従来の対面型教育がオンライン学習に置き換えられる可能性は。

(AD) : キャンパスや教室を中心とした従来型の教育へのニーズは根強く残るでしょうが、オンライン学習も定着していくでしょう。以前「非伝統的な学生」と呼ばれていた人たち(25歳以上、社会人、一人親など)が多数派になりつつある現代では、労働市場での自分の競争力を高めるための高等教育の利用の仕方も変わってきています。テクノロジーの活用によって、私たちは自分にあったスタイルで一生学び続けることができると考えています。

 

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