現代医療の進歩によって人間の寿命は延び、加齢に伴う病気や症状の治療に対するニーズが高まっています。こうしたニーズに応えるソリューションとして期待されるのが「再生・細胞医療」。医薬品・ヘルスケア担当アナリストの植田晃然が、再生医療ブームの背景について解説します。
再生・細胞医療とは何か?
植田:幹細胞を活用した治療、バイオエンジニアリング、臓器・組織移植といった領域を含む再生・細胞医療は、ヒトの細胞や組織・臓器を置き換えたり、操作・加工・再生したりすることで、正常な機能を回復または確立することを目指す新しい治療分野であり、つまりは人体の自己修復力を促す治療とも言えます。さまざまな再生治療法の中でも、幹細胞を活用した治療は今後の再生・細胞治療の基礎となる可能性が高いと考えています。幹細胞は、神経、筋肉、血液細胞等、特定の機能を持ったさまざまな細胞を作り出す能力を持っているため、人体の多くの部位の治療に活用することができます。またノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が、成熟細胞を、胚性幹細胞のように分化能力を持つ細胞(iPS細胞)に変化させる技術の確立に成功したことから、これらの治療法の可能性がさらに広がってきました。
日本で特に再生・細胞治療の開発が活発化しているのはなぜ?
植田:グローバル医薬品において主要市場のひとつである日本は、世界に通用する医療製品の研究開発や製造のインフラが整っています。また、再生医療の実用化における先進国となることを目指して日本政府も法規制の改革を進めてきました。
例えば、日本は再生医療製品の独立した承認制度を整備している唯一の国であり、承認審査においてはデータ取得や臨床研究の評価における、この分野特有の課題が考慮された制度設計となっています。日本では再生医療製品を対象とした前期臨床試験後の条件付早期承認制度が整っており、メーカーは最終的な承認を得るまで最長7年間にわたって製品を市販することが許可されています。また、条件付承認を取得した製品は保険収載されるため、製品コストの大部分は保険により賄われることになります。これは、医師、患者の双方にとって新しい治療に取り組みやすい環境であり、メーカーにとっては規模の大きい日本市場での製品の早期浸透が期待できます。
こうした改革の効果は、日本企業と海外メーカーとの提携の増加や、グローバルにみても有望な再生・細胞医療製品を有する国内のスタートアップ企業の台頭といった形ですでに顕在化しつつあります。
今後、日本および世界の再生・細胞医療市場はどのように発展していくと考えるか?
植田:厚生労働省は2018年11月、脊椎損傷治療に用いる自己骨髄間葉系幹細胞製品に対する条件および期限付承認を了承しました。これは、比較的小規模な臨床試験に基づく条件付承認が、着実に進捗していることの好例であると同時に、他に有効な治療法のない疾病においては、再生・細胞医療製品を安全性が許容される範囲内で積極的に承認する日本政府の姿勢の表れと捉えています。条件付承認例が増える中、他の企業における新製品開発への期待も高まると考えられます。
また、再生・細胞医療製品の有望性に着目し、ベンチャー・キャピタルによる投資も世界的に活発化しています。2015年および2016年には、主要なベンチャー・キャピタル案件の半数近くを幹細胞治療関連企業への投資が占めました。またベンチャー・キャピタルによる投資額は、2011年のわずか2億9,600万ドルから2016年には8億700万ドルに増加しており、資金調達面での環境が整いつつあることも今後、この分野における一層の研究開発の進展と成長を促すことになると考えています。
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