2017年に急速に高まった電気自動車(EV)に対する過度な期待が後退している一方で、ハイブリッド車の普及はむしろ加速傾向にあります。EVの本格的な普及を前に各メーカーがハイブリッド技術へ投資をしている理由について自動車担当アナリストの湯澤康太が解説します。
EVへシフトする前にハイブリッド車を経由する必要があるのはなぜか。
湯澤:EV普及の最大のハードルの1つがバッテリーコストです。消費者にEVが広く受け入れられるためには、バッテリーコストを100ドル/kWh以下に抑える必要があります。これが実現するまでは、各メーカーとも最も現実的かつ高収益なハイブリッドならびにプラグインハイブリッドの販売に注力することになると考えています。各国政府も、EV一辺倒な政策から現実的なハイブリッド車を含めた広義の「電動車」を促進する政策へと転換し始めています。ハイブリッドは少なくとも向こう10年間、電動化のメインストリームとなるでしょう。ゴールドマン・サックスでは、欧州の燃費規制の想定以上の厳格化と直近のディーゼル車の大幅なシェア低下を背景に、2030年までにハイブリッドを含む電動車の販売比率が35%まで上昇すると予想しています。
なぜ車載バッテリーのコストがなかなか下がらないのか。
湯澤:一般的に車載バッテリーの価格は、量産効果による固定費の低減とエネルギー密度(一定の質量ないし重量に対してどの程度のエネルギーを蓄えることができるかを図る尺度)の上昇によって低下していきます。リチウムイオン電池の生産能力拡大が続く中国でさえ、kWhあたりのバッテリーコストは2018年末時点で175ドルと大きく下がってはいません。また既存のリチウムイオン電池のエネルギー密度の改善余地も頭打ちになっています。また仮にEVの普及が加速する100ドル/kWhレベルまでバッテリーコストが低下しても、将来的な電池の経年劣化や長い充電時間の問題を解決することは難しいでしょう。
電動化の進捗度合いは地域によって異なるか。
湯澤:欧州では環境規制がさらに強化されたこともあり、ハイブリッド車の普及が加速する可能性が高いでしょう。来年欧州で導入される二酸化炭素の排出規制をクリアできなければ自動車メーカーは巨額の罰金を科されることになります。世界最大のEV市場である中国では政府が新エネルギー車(NEV)政策を推進してきましたが、足元ではこのNEVに対する補助金を大幅にカットしてきています。つまり損失覚悟でEVを販売することをメーカー側に強いており、仮に政府が要求するEV販売比率を達成できなければペナルティを科す規定が盛り込まれています。補助金という「アメ」ではなく「鞭」を使った政策に転換したとも言えます。日本では電動化の段階的なシフトを推進しており、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車など多様なパワートレインをバランスよく普及させることを目指しています。一方で米国市場では燃費規制の緩和により電動化の普及スピードが鈍化する可能性が浮上してきました。
EVの幅広い普及を促進または阻害するその他の要因は何か。
湯澤:一般的に政府の販売刺激策とコスト低減がEV普及を促進するカギとなります。たとえば、一部の北欧諸国は環境保護政策やエネルギー政策の一環としてEVを奨励しています。中国政府は新車購入を制限するために厳格なナンバープレート割当制度を導入していますが、EVはその対象から除外しています。また補助金のおかげで、NEV購入者は3年以内にそのコストをを回収できるようになっています。
政策には不確定な要素も多いうえ、EVの普及によってリチウム、コバルト、ニッケルといった天然資源の需給が逼迫する可能性にも目を向ける必要があります。仮に原材料価格が倍増すればバッテリー価格は15%上昇するでしょう。EVが内燃機関車よりも高い価値をユーザーに提供できなければEVの普及は期待できないかもしれません。今後メーカー各社は、EVのコスト低減に加え、航続距離の延長や充電時間の短縮に注力していくと考えています。
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