ゴールドマン・サックス 米国シニア・インベストメント・ストラテジストのアビー・コーエンによる寄稿が日経ヴェリタスに掲載されました(2020年2月16日)。
トランプ減税、財政赤字を長期化?
米大統領選挙は2020年11月3日に実施される。米下院は435議席全て、上院は100議席の3分の1が改選されるため、議員の大半も選挙運動を行い、経済政策に関する真剣な議論を繰り広げる。民主党の有力候補の間では、公的医療保険の拡大、学生ローン債務の扱い、企業への規制強化など政策の方向性について意見の不一致がある。これらを巡る対立は民主党の大統領候補が決まる夏まで解消されないかもしれない。
トランプ米大統領は2月4日の一般教書演説で、いくつか選挙戦のテーマを示した。その多くは、経済とそれに関連した貿易、移民問題が中心だった。トランプ氏はカナダ、メキシコ、中国との新たな貿易協定の交渉に成功したと主張した。米経済は09年半ばの世界金融危機後の景気後退から脱出して以降、途切れることのない成長が続いている。トランプ氏は、過去10年間の国内総生産(GDP)の拡大と失業率の低下を自らの功績によるものだと強調した。
同演説や、その後の政権関係者の発言は、GDP伸び率が目標の年3%に達していない理由として、新型肺炎や特定のボーイング製航空機の運航停止などを挙げた。エコノミストの大半は持続可能な米成長率は2%に近く、これらの一時的な要因は、成長率を0.1~0.2ポイント程度押し下げる可能性があるとみる。
予算案、議論呼ぶ内容
一方、10月1日から始まる新会計年度の予算案が2月10日に発表された。今年の予算教書はいくつかの点で議論を呼ぶ内容で、最終版は大幅に修正されるだろう。米国の最終的な予算編成権は議会にあり、21年度の連邦予算の最終的な形は、議会で可決され、大統領が署名するまでわからない。
予算案は、人気の高い社会支出プログラムの一部を削減する。低所得者向け公的医療補償制度「メディケイド」や、食料費補助の「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」などが大幅に縮小される。逆説的だが、16年にトランプ氏を支持した農村部の郡に住む有権者が、その影響を受ける可能性が最も高い。予算案は、国防支出と退役軍人への支援を拡大し、他の多くの連邦政府職員の給与や退職者の給付を削減する。16年の選挙戦の公約であるにもかかわらず、インフラ支出は予算案の主要な要素になっていない。
予算案では、科学や基礎研究、開発支出も大幅に削減される。20年度の予算案も同様の内容だったが、議会が予算を復活させ、特に米国立衛生研究所(NIH)などは予算が大幅に増えた。対照的に、トランプ政権は現在、科学予算の削減を提案しており、新型肺炎対策に取り組む世界保健機関(WHO)への米拠出金を半分に削減しようとしている。
連邦財政赤字は今後も増え続けるとみられ、年間1兆ドル以上の赤字が数年間予想される。18年の「トランプ減税」は経済活動をやや後押ししたが、その結果生じた財政赤字はより長い期間にわたって続くようだ。
世界経済の下降懸念
20年中は米連邦準備理事会(FRB)による大幅な金融政策の変更は予想されていない。1月29日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文は、FRBが11月の選挙前の金融政策の変更を回避することを望み、それが可能かもしれないという結論を支持した。
より差し迫った懸念として、世界経済が、特にアジアで下降に転じた可能性が挙げられる。世界のサプライチェーンの混乱も懸念材料だ。金利が既に極めて低水準にあるため、金融政策で経済を刺激するには、世界金融危機と同様の手段が必要になるかもしれない。
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