投資におけるジェンダー・ギャップの解消に向けて

ゴールドマン・サックス
チーフ・ストラテジー・オフィサー
ステファニー・コーエン


June 19, 2018

私は男性中心の業界でキャリアを築いてきました。インベストメントバンカーとして20年近く仕事をしてきましたが、役員室の中での私はいつも異質な存在でした。もちろん、女性である私の発言は覚えられやすいとうメリットもありました。しかし私の意見は、最初から「女性の視点」扱いをされることがほとんどでした。これは女性にとってだけではなく、もっと大きな問題をはらんでいます。世界経済の原動力は、イノベーションであり、創造力であり、また多様な視点の共有です。経営にかかわる最も重要な議論の場から、人口の半分を占める女性を実質的に締め出すのであれば、すべての人の進歩が妨げられることにもなりかねません。    

こうした世の中の流れを変えるには時間がかかります。人種、民族、性別、障がいの有無、性的指向、年齢を問わず、誰もが才能を発揮できる環境の醸成に向けて、あらゆる組織が一致して協力しなければなりません。ゴールドマン・サックスでも、世界の多様性を十分に反映した人員構成の達成を目標に掲げていますが、そのためにはさらなる努力が必要だと認識しています。

ダイバーシティ(多様性)は、企業がその主たる業務を通じて推進できるものでもあります。ゴールドマン・サックスは、女性が設立、所有もしくは経営する企業の成長を支援することが、その貢献のあり方の一つだと考えています。

こうした背景から、当社は「Launch With GS」という新たなイニシアティブを立ち上げました。これは、女性が設立、所有もしくは経営し、これから大きく羽ばたこうとする非公開企業に対し、当社やお客様の資金を合わせ5億ドルを投資するというものです。企業への直接の資金提供のほか、自らファンドを立ち上げようとする女性ファンド・マネージャーへのシード資金の提供も含まれます。

これまで「女性が経営する事業には十分な投資が集まらない」と言われており、これを裏付ける驚くべき統計データもあります。2017年の米国のベンチャー投資のうち、創業者が女性のみである企業への投資は全体のわずか2%、創業者のうち最低1人は女性である企業への投資も12%にとどまりました。また米国のプライベート・エクイティ・ファンドのうち、女性オーナーのファンドの割合は全体の2%にも届きません。

このような目を覆いたくなる状況の原因が、投資機会を発見する努力が不十分なのか、そもそも投資機会自体が不足しているのか、全くの偏見によるものか(あるいはこれらが組み合わさっているのか)、いずれにしても一つはっきり言えるのは、「創業者」や「CEO」という言葉から連想されるのは、おそらく男性であるということです。素晴らしいアイデアを持った女性の起業家に投資すること自体は手助けになると思いますが、単にお金だけでは解決できない課題も多くあるのです。

「Launch With GS」の真の狙いは、投資家、起業家、NPO、様々な分野のリーダー(男女問わず)を引き合わせ、ネットワークの場を創出することで新たなビジネスの育成と成長を図ることにあります。このようなコミュニティが形成されていけば、長期的には女性が経営する企業への投資機会も増えていくだろう考えています。

「Launch With GS」は、当社が長年取り組んできた女性の経済的地位の向上へのコミットメントに基づいたもので、その象徴的な活動が「10,000 Women(1万人の女性)」プログラムです。2008年以降、新興国を中心に世界中で1万人を超える女性起業家に教育や研修の機会を提供してきました。このプログラムは、女性の社会的地位の向上はプラスの経済効果をもたらすという考え方にたった先駆的な慈善活動ですが、「Launch With GS」はその同じ考え方を当社の主要業務の一つである投資事業にも拡大したものです。

「Launch With GS」が最終的に目指しているのは、投資に対する十分なリターンです。この取組みは、結局のところ、当社の本業である投資と企業への成長支援の一環でもあるのです。同時に、優れたアイデアを持ちながらも、資金調達のエコシステムの蚊帳の外におかれた女性の環境改善につながればと願っています。

投資の世界におけるジェンダー・ギャップの解消は一企業だけでは成し得ない、大変大きな課題ですが、「Launch With GS」がその道筋への第一歩になると、私たちは信じています。