アジアの生成AIエコシステム

生成AI(人口知能)はなぜ注目されている?

生成AIが株式市場で大きなトピックになっている背景には、その普及や浸透による経済的なメリットが誰にとっても分かりやすい点が挙げられるでしょう。2000年代にはインターネットが普及し、2010年代には4G/LTEといった通信インフラの整備に伴い様々なサービスが誕生しました。企業であれ個人であれ、投下したコストに見合ったメリットが得られれば、新しい技術は社会に浸透していきます。その点生成AIは、企業にとっては成長力と競争力の向上につながり、また個人にとっても便益をもたらす可能性のある技術であることは、誰でも理解できます。またマクロ経済への影響という観点からも注目されています。ゴールドマン・サックスのエコノミストは、AIの導入が順調に進めば世界全体のGDPは7%押し上げられる可能性があるとしています。

生成AIの社会への浸透は米国において非常に早いペースで進んでいます。アジアの企業もAIを積極的に導入しなければ国際競争に勝ち残れません。競争が更なる競争を生み、行き過ぎた生成AI関連への投資の可能性も考えられます。


生成AIの産業構図は?

ゴールドマン・サックスでは、生成AIのエコシステムを包括的に理解する上で、生成AIの開発そのものに関連した「Enabler」企業と、生成AIの活用によってさらなる活躍が期待される「Empowered」企業に分類しています。「Enabler」企業は大規模なクラウドサービス提供者(パブリッククラウドハイパースケーラー)、大規模言語モデル(LLM)開発業者、半導体関連、その他のハードウェアなどにさらに細かく分類され、「Empowered」企業はコンテンツ制作、ゲーム開発、自動化、企業向け生産性ツールなどに分かれます。

サーバーや通信設備などのインフラはAIモデルと機能の開発に不可欠であるため真っ先に恩恵を享受する可能性が高いですが、ソフトウエアについては開発とその後の普及に時間がかかる可能性があり、収益化が実現するのはその後になるでしょう。


生成AIにおいて存在感が急速に高まる中国の市場動向は?

中国のクラウドハイパースケーラーは、その膨大なデータ処理能力と大手ハードウエア企業とのパートナーシップを生かして、クラウド市場における基盤をさらに強化するでしょう。当社の予測では、生成AIの普及により中国のクラウドコンピューティング業界の市場は1,500億元(210億米ドル)程度にまで拡大すると考えられます。またLLMの分野でも多くの開発企業が中国で台頭していますが、汎用LLMでは淘汰が進み、大きな資本力と技術力を持つ企業の独占状態となる一方、個々の企業や業種に特化したLLMでは多数の企業が共存することになると予想しています。中国の巨大インターネット企業が検索・ウェブ広告をはじめ、eコマース、ゲーム、コンテンツ、企業向け生産性ツールなどの分野で生成AIを活用する機会は多いでしょう。こうした巨大ネット企業が世界に先駆けてWeChatやDouyinなどの多目的スーパーアプリを開発した実績を考えると、今後はチャットボットにとどまらない、より具体的な消費者向けアプリの開発を手掛けていく可能性が高いと考えています。
 

中国以外の企業にとって勝機はあるのか?

半導体関連やハードウェアの領域では、生成AIの重要な「Enabler」企業が世界中に数多く存在しており、中華圏のみならず日本と韓国の大手企業が活躍できる場面も大きいと考えています。具体的にはAIサーバーが挙げられます。通常のサーバーと比べ搭載部品が多く一台あたりの単価が高いAIサーバーの普及が加速すれば、関連セクターでリーダーとなる韓国や日本の企業に恩恵が広がると見ています。


生成AIの今後の展開は?

生成AIの市場は成長が始まったばかりで、今後の市場拡大のスピードや個々の企業への恩恵の程度など変動要因がまだ多く存在します。各産業で生成AIの有効な使い道が早期に確立され競争が激化することで、AI投資が急速に加速するシナリオが考えられますが、その一方で半導体サプライチェーンの生産能力の制約、あるいは米中摩擦と半導体規制強化、AI自体に対する規制強化など、様々な要因から社会におけるAIの普及・浸透が想定より遅れる可能性も十分にあり得ます。