欧州規制当局は自動車が環境に及ぼす影響をより厳密に評価する新たな手法の導入を検討しています。ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれるこのアプローチは、走行中だけでなく、自動車のライフサイクル全体のCO2排出量を評価対象とするものです。自動車担当アナリストの湯澤康太が、電気自動車の未来、そして自動車業界に対するLCAのインプリケーションについて解説します。
自動車が環境に与える影響は現在どのように評価されているのか。規制当局はなぜ、そしてどのように、現行のアプローチを変えようとしているのか。
湯澤:現行の評価方法では走行時のCO2排出量のみを考慮していますがそれは自動車の環境負荷のごく一部にすぎません。全体像を捉えるためには、欧州規制当局が2023年を目途に導入を目指しているLCAのアプローチが重要になってくるでしょう。LCAは車両製造、燃料調達、廃棄を含む自動車のライフサイクル全体が環境に与える負荷を総合的に評価する手法です。
現行の手法とLCAでは算定されるCO2排出量にどのくらい差があるのか。
湯澤:算出方法にもよりますが、大きな差が出る可能性があります。現行の評価手法では電気自動車(EV)のCO2排出量はゼロで一見理想的ですが、LCAを適用すると、CO2排出量は1km当たり100~120gと算定されます。これに対し、一般的なガソリン車(ICE)の1km当たり平均CO2排出量(一般的なセダンの場合)は現行評価手法で120g程度。仮にLCAを適用すると170~180gに膨らみますが、増加幅はEVの100~120gに比べ、わずか50~60gです。
LCA適用によるEVのCO2排出量増加はライフサイクルのどの段階に起因しているのか。
湯澤:製造段階が大きいです。実はEVの車両製造時のCO2排出量はICEの2倍にのぼっており、この差異は電池製造時のCO2排出に起因しています。もちろん今後電池の技術革新が進めば――長期的には当然そうなると予想されますが――LCAによる評価でもEVの優位性がガソリン車に対して明確になるでしょう。
LCAで評価した場合、EVの環境への影響は地域によりどのような違いがあるのか。
湯澤:EVのライフサイクル全体のCO2排出量は製造・走行地域の電源構成に大きく左右されます。例えば、アジアで製造された電池は米国や欧州で製造された電池よりもCO2負荷が高いのです。電源構成においてクリーンエネルギーの占める割合の大きい欧州ではLCAで評価してもEVの優位性は揺るぎません。しかし、日本や中国をはじめとする欧州以外の地域ではいまだに化石燃料に頼った発電方法が主流となっており、EV化による環境負荷低減効果は相対的に小さくなります。
LCAは欧州で始まった取り組みですが、その影響はどこまで広がるのか。
湯澤:主要な自動車市場を擁するほとんどの国はパリ協定に署名しているため、LCAの提案は世界的な広がりを見せるでしょう。航続距離延長を求める消費者の要求に応えるために電池搭載容量を引き上げる必要がありますが、現在のバッテリー技術に更なる革新がない限り、LCAの観点では環境負荷が増大することが考えられます。電源構成に占める再生エネルギーの割合が大きい地域の電池・部品サプライヤーは、化石燃料への依存度の高い地域のサプライヤーより優位に立てるでしょう。また、LCA時代には地域による電動化ペースに大きな格差が生じると考えられます。様々な技術に対応するため規模の大きいグローバルプレーヤー以外は、合従連衡を模索する可能性がより高まるでしょう。
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