日米が築いた連携体制

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ジャレッド・コーエン

ゴールドマン・サックス グローバル・アフェアーズ代表兼ゴールドマン・サックス・グローバル・インスティチュート共同統括

地政学リスクの高まりとグローバル経済の変化は、日米関係を一層重要なものにしています。両国ではともに2024年に選挙が実施され、政治上の変化を経験しましたが、日米同盟をさらに深化し拡大させていくことについては、日米ともにかねてより同意しています。

日米同盟の強化は政権や指導者の交代に関わらず続いています。2016年にドナルド・トランプ次期大統領を訪問した最初の外国指導者は、故安倍晋三元首相でした。その後、バイデン大統領と岸田文雄前首相は、関係を「新たな高み」に引き上げることを優先事項としました。2025年1月、トランプ次期大統領がホワイトハウスに戻れば、ロシアとの対立、中国との競争、北朝鮮の脅威などの共通した経済的・地政学的リスクに向き合うことになるでしょうから、日米関係はさらに緊密なものになる可能性があります。

日米関係はアジアの安定と繁栄の柱であり、歴代の政権は同盟関係を重視してきました。そして両国は共に、地球で最も人口の多いアジア地域について、世界の指導者たちに理解を深めさせました。故安倍元首相は、多様な国々に散らばる何十億もの人々がつながり、平和な未来を築くという共通のビジョンを、「自由で開かれたインド太平洋」と名付けました。トランプ大統領とバイデン大統領はこの考えを採用し、米国の海外関与のスタンダードとするとともに国内では超党派の同意を得ました。

この枠組みに基づき、インド太平洋における民主的な協力関係が再構築され、2国間交渉からミニラテラルやマルチラテラルの枠組みへと拡大されました。オーストラリア、インド、日本、米国の外交パートナーシップであるクアッドは、10年以上の休眠状態の後、2017年には実務レベルで、2020年には閣僚レベルで活動が再開されました。過去4年間に4回のクアッド首脳会議が開催され、加盟各国は安全保障からインフラ、投資、教育まで幅広い問題に取り組んでいます。日本は、米国と韓国との3国間協議にも参加しフィリピンとの連携を深めています。日本がリードしたG7広島AIプロセスでは、生成AIに関する国際的なルールや安全性にまつわる議論を主導しました。

日本の経済外交術は、他国から見れば多様性とレジリエンスのお手本のようなものです。2010年、中国は日本を抜いて世界第2位の経済大国となりましたが、その同じ年、中国はレアアースの対日輸出制限を行いました。中国が同様の制限を米国に課したのは約10年後のことです。日本は、採掘・精錬を行う新たなパートナーシップを構築し、新たな購入先を見つけ、オーストラリアなど同様の問題を抱える国々と協力してサプライチェーンを多様化するなどして対応しました。

逆に、日本の経済政策はサプライチェーンと資本の流れを日本に引き寄せています。ラーム・エマニュエル駐日米国大使は、中国の成長鈍化と中国の強硬姿勢に対する懸念により、日本は国際投資の魅力的な代替先となっていると主張しています。また人工知能(AI)の台頭と中国との技術競争により、日本は半導体市場の再活性化を「国家プロジェクト」とし、国内総生産の割合で見ると米国、ドイツ、フランスよりもはるかに多くの資金を半導体産業に投資しています。日本の世界経済への影響も大きくなっています。GCC(湾岸協力会議)諸国が従来のエネルギー分野以外での新たなビジネスチャンスや投資テーマを日本で模索するなど、日本と中東の経済関係の活発化がその一例です。

これら変化の結果、日本は世界で最も注目を集める市場の一つになりつつあり、米国の労働者と投資家はその恩恵を受けています。日本は米国にとって6番目に大きな貿易相手国であるとともに、米国への対外直接投資の最大の供給国でもあります。また国内の様々な改革やターゲットを絞った産業政策、貿易フローの変化は日本に対する海外投資家の関心を高めています。日本は2030年までに対日直接投資残高を倍増させるという目標を掲げています。ゴールドマン・サックスのグローバル投資調査部は、日本の経済見通しは明るく、デフレリスクは和らぎ、2025年と2026年の成長率はユーロ圏を上回ると予測します。

日米安全保障同盟は、防衛分野では静かな変化を遂げてきましたが、その影は世界中に広がるでしょう。他地域において不利な展開となった場合に、影響が日本の近隣地域にも及ぶ可能性があることから、日本政府はヨーロッパとアジアにおける安全保障の結びつきを再確認しました。2022年に閣議決定された「安全保障関連3文書」では、日本は2027年までに防衛費を対GDP比倍増させるとしています。これは日本が世界3位の防衛費を持つ国になることを意味しています。日本はウクライナの強いパートナーとして、これまで120億ドルを超える支援を行う一方、ASEAN加盟国に働きかけ加盟10か国のうち8か国に賛同を取り付け、ロシアによるウクライナ侵攻に対して共同で非難の表明をしました。加えて日本はグローバル戦闘航空プログラムに参画し、英国、イタリアと協力し次世代戦闘機の開発にも取り組んでいます。日本はまた、インド太平洋地域におけるNATO(北大西洋条約機構)にとって、重要なパートナー国の一つでもあります。意志と能力を増した日本の支援と対応姿勢は、台湾有事やインド太平洋地域における他の地政学リスクに協力して対応する際に非常に重要になるでしょう。

日本と米国は必ずしも常に意見が一致するわけではなく、両国が乗り越えなければならない課題もあります。米国は2017年に環太平洋パートナーシップ協定から離脱し、バイデン政権が推進したインド太平洋経済枠組み(IPEF)では、インド太平洋地域における経済外交術の基盤をまだ確立できていません。一方、日本は人口動態などの長期的な課題を抱え、さらなる改革とパートナーシップを必要とする可能性があり、米国の新政権は難しい国際情勢の中で独自の対応を迫られることになるでしょう。

さまざまな障害はあるものの、日米間、そして両国のパートナーとの協力体制はインド太平洋における自由と開放の基盤であり、経済、技術、安全保障の領域に及んでいます。日米の世論は両国の関係強化を支持しており、数々の世論調査においても米国人は日本に信頼を寄せており、日本国民は米国との関わりを支持していることが示されています。

強力な日米関係は、複数の政権が何十年にもわたって積み重ねてきた努力の成果であり、両国の国民とパートナー諸国の善意の歴史の上に築かれています。その結果、今日、日米関係はおそらく世界で最も重要な同盟関係となっており、日本と米国のどの新リーダーにとっても、就任初日に持つ最大の資産の一つだと言えるでしょう。

本文は英語原文を翻訳したものです。本文と原文に相違がある場合には、英語の原文が優先します。