日本の自動車産業は、新型コロナウイルスの感染拡大によって2008~2009年の金融危機以来の難局に直面しています。しかし今後の状況の進展によっては、いったん大きく落ち込んだ市場が早期に急回復する可能性があるとゴールドマン・サックスは考えます。日本の自動車メーカーの現状と市場の先行きについて自動車業界担当アナリストの湯澤 康太が解説します。
日本の自動車産業の見通しは。
湯澤:自動車業界は新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの寸断などによって、販売台数が大きく減少すると予想しています。2020年の世界販売台数は前年比で17%と大幅な減少を予想しています。地域別で見ると米国は30%減、西欧は31%減、日本は8%減に加え、中国やインドなどの新興国でも大きな販売のマイナスを見込んでいます。当社の日系完成車メーカーの21年3月期営業利益予想は、ウイルスの影響が現れ始めた3月上旬の予想と比べ累計38%の減額を行っています。これはウイルスの影響が現れ始めた3月上旬の予想と比べ累計38%の減額となります。しかし、今回は貸し渋りなど与信状況が急に悪化するような金融危機ではないとの見方をすると、いったん終息に向かえば比較的早期に需要が回復に向かうと考えており、2021年の世界販売台数は前年比で12.5%増、2022年は5.0%増と堅調な回復を予想しています。
自動車メーカーへの世界金融危機の影響は長引いたが、今回、早期な回復が見込めるのはなぜ。
湯澤:世界金融危機時の落ち込みと比べ、今回の状況は主に3つの点で異なっています。まず、経済成長は各国の経済・金融政策に支えられ、早期な回復が期待できると当社のエコノミストは分析しています。次に、金融危機時に大きな収益悪化をもたらした自動車メーカー各社の販売金融事業ですが、現在は適切に与信管理が行われており、経済が順調に回復すれば、収益の大きな足かせにならないと見ています。最後に、自動車メーカー各社は金融危機以降、バランスシートの強化を行ってきた経緯があり、現在、大半のメーカーでは手元資金や自己資本を見ても財務体質が健全であり、販売環境の急変に対応できる余力を持っていると考えます。
米国市場に対して楽観視はできないのでは。
湯澤:確かに米国の2020年の販売台数はピークからの下落率が30%を超える規模で、過去2回の米国需要の大幅減速に近い落ち込みを想定しています(季節調整済み年率換算ベース)。ただし今回の落ち込みは、生産停止やディーラー販売活動の制約、急激な消費者心理の悪化が背景であり、いずれも自動車に対する潜在的な需要を根底から覆すものではないでしょう。金融危機後も一定の時間をおいて、買い控えが解消傾向に向かい抑制されてきた需要が顕在化し、自動車販売が力強く回復しました。今回の状況が金融危機とは本質が違うとの見方に立てば、米国の販売台数の戻りは比較的早い可能性があると考えています。
中国の状況は。
湯澤:新型コロナウイルスの影響がいち早く顕在化した中国市場では、2月の販売が78%減と他の市場に先駆けて落ち込みました。一方で週次ベースの販売は3月以降は週を追うごとにマイナス幅が縮小しており、4月の第2週にはプラス成長に回帰しています。地方政府による自動車購入補助金の発表や、環境対策として導入されている自動車のナンバープレート発給制限の緩和への期待を考えると、少なくともディーラートラフィック(ディーラーへの来客状況)は前年並みに戻っている可能性があり、今後は成約率の正常化を待つ局面に入って行くでしょう。また生産に関しても、中国における工場の操業停止などの影響は2-3月に日系メーカーの収益に大きな打撃を与えましたが、各社とも徐々に稼働再開を発表するに至っています。中国政府の刺激策によって消費者心理が早期に好転すれば、5月にも日系メーカーの中国における生産は正常化に向かうかもしれません。
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