日本政府は新型コロナウイルスの影響に対応するため、大規模な経済対策を打ち出しています。厳しくなった財政正常化と政府債務増加のリスクについて、日本のチーフ・エコノミスト馬場直彦が解説します。
新型コロナウイルス危機は財政健全化、金利正常化にどのような影響を及ぼすのか。
日本は政府債務GDP比率が2019年度時点で202%(当社推定)と、財政状況の悪化が先進国の中でも際立っています。もっとも、当社調査部が行った試算によると、新型コロナ問題発生以前は、10年金利が1%まで引き上げられるという仮定の下でも、政府債務GDP比率は一貫して低下基調で続くという結果が得られました。また、金利が2%まで引き上げられたとしても政府債務比率の上昇幅は小幅で、2030年度でも、2019年度とほぼ同様の水準に止まる結果が得られました。従って、この段階では、ある程度の金利正常化と財政の持続可能性は両立可能と見ていました。しかし、新型コロナ問題の発生により2020年度の日本の経済成長率は戦後最大の落ち込みとなることが予想されます。加えて、緊急経済対策の発動により財政支出は大きく拡大します。その結果、財政赤字(GDP比率)は2020年度に10%程度に達し、その後も高止った状態が長期的に続くと予想しています。この標準シナリオ下では、仮に10年金利が0%で据え置かれたとしても、政府債務GDP比率は上昇を続ける可能性が高く、2030年度には240%を超える可能性が高いと考えています。
債務比率の上昇を止めるための金利水準は?
5月半ばに行った当社の試算結果によると、標準シナリオの下で政府債務GDP比率の上昇を防ぐためには、利払い費を債務残高で割った実効国債金利を長期にわたりマイナスに保つ必要があります。市場における長期金利が低下しても既発債の利払い費は変わらないため、その変化が実効国債金利に完全に反映されるまでには長い時間が必要です。そのため、債務比率の上昇を回避するためには、金利は早々に大幅なマイナスに転じ、さらに長期にわたりマイナス圏で維持される必要があるということなります。つまりコロナ危機により、金利正常化のハードルはさらに高まったと言わざるを得ません。
政府債務増加の影響は?
政府債務の増加には多くの潜在的リスクの存在が考えられ、さまざまな調査機関の分析によってすでに指摘されています。たとえば、約40年間にわたる先進国と新興国の調査に基づく国際通貨基金の研究では、初期の債務水準が高いほど、その後の経済成長へのネガティブな影響も大きくなるという証拠も確認できました。日本は先進国中で最も高齢化が進んでおり、その負担が財政悪化の主因となっています。今後も高齢化で社会保障費がますます増え続けることは確実で、財政再建の目途は全く立っていません。こうした中、働き盛り世代を中心とする現役世代は、平均余命の上昇に伴う「長生きリスク」に加えて、公的年金や医療・介護給付金が将来的に減額されるリスクなどを現役世代が強く感じています。こうした状況下、自ら老後に備えるために、消費を減らし貯蓄を増やすインセンティブを高めている可能性が高く、当社の分析でもこの点が明らかになりました。これは、内閣府の調査結果とも整合的です。
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