コロナ危機が輸送燃料需要を直撃するなど、グローバル原油市場は深刻な需要ショックに見舞われています。オイルショックの背景と原油市場の見通しについて、ゴールドマン・サックスのコモディティ・リサーチ、グローバル統括のジェフ・カリーと、エネルギー・コモディティ・リサーチ統括のダミエン・クーバリンが解説します。
今回のオイルショックはどれくらいの規模なのか。
カリー:経済的には近年で最大規模のショックですが、人の移動が制限されたことで燃料需要が急減、原油市場にも大きな影響を与えています。新型コロナウィルス感染拡大を防止するためのソーシャルディスタンシングによって、特に運輸業界は大打撃を受けています。その影響は経済全体への影響の2倍近いのではないか考えています。我々も含めて多くの専門家は中国・武漢の状況を参考にし、日量2,500万バレル(25%)の需要が失われていると見積もっています。しかし、イタリアやニューヨークではより厳格な都市封鎖が実施されており、ガソリンスタンドや高速道路も閉鎖されています。さらに世界中で航空業界がほとんど休業状態に追い込まれていることから、日量3000万バレルの方が現実に近いかもしれません。
原油価格への影響は。
カリー:もちろん原油価格を押し下げる要因になり、原油の種類によってはすでに事実上のマイナスに転じているものもあります。しかし、今回の未曽有の需要ショックは多くの石油生産設備の閉鎖を促し、結果として歴史的規模の供給ショックを生み、インフレ圧力となる可能性があります。油田、パイプライン、タンカー、貯蔵施設、精製所、流通ネットワークなど石油産業を支える特有のインフラには物理的制限があるからです。世界にはまだ10億バレル程度の予備貯蔵能力があると推計していますが、輸送網が急速に寸断してしまったことからそのほとんどは使われることはないでしょう。原油の行き場がなくなれば、生産者は減産や操業停止に踏み切るか、あるいは、コストを払っても原油を処分する動きに出るため、採算割れになるケースもあり得るのです。
しかし地質上、在来型の陸上油田の中にはいったん操業が止まると質の劣化が進み、簡単に再開できないものがあります。一方、海上油田はこのような問題がなく、それどころか操業を一時停止し再開すると、生産量が増えるケースもあります。パイプラインというボトルネックを勘案すると、影響を受けやすいのは陸上油田の油井で、アメリカ、カナダ、ロシア、南米を中心に一部は致命的なダメージを受け、日量500万バレルの生産能力が長期間にわたって失われる可能性があると考えています。経済活動が正常化し需要が復活しても生産がすぐには追いつかず供給不足が続くため、私たちは2021年の原油価格を1バレル55ドルと予想しています。さらにパイプラインの目詰まりで在庫の積み上げが妨げられれば原油不足のリスクが一気に高まり、原油価格がさらに上昇する可能性もあるでしょう。
今回のショックの長期的な影響は。
クーバリン:需給のバランスが大きく崩れた時に原油価格のボラティリティが劇的に高まる理由は、現物市場のバランスを回復させるような価格メカニズムが働くからです。現在のように大幅に供給過剰となっている時期には、産油国に生産設備の閉鎖を動機づけるよう価格は急低下します。その一方で、供給に十分なダメージが加わると、需要の回復にともない価格の急騰も避けられないことがあります。この激しいリバランシングと価格変動から恩恵を受けるのは、需要の増加に応じて素早く容易に増産できるサウジアラビアのような低コスト産油国、また生産サイクルの短いシェールオイルなどです。シェールは特に有利な状況にあると考えています。シェールオイルは在来型原油とは性質が異なり、新規開発のために近くの油井を一時的に操業停止にすることもよくあります。つまりシェール油井は、閉鎖しても素早く再開でき、生産量のロスも限定的ということを示唆しており、シェールガスではこのことがすでに証明されています。したがって、生産力に柔軟性があり比較的採掘期間も短いといった利点をもつシェールオイルの生産者にとっては、今後の原油需要の回復が収益化のチャンスにつながるでしょう。
上に記載された予想値は2020年3月31日時点のものです。予想はその後変更されている可能性があります。
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