自動運転の普及は本当に進むのか?
一定条件下においてドライバーに代わってシステムがすべての運転操作を行うレベル3へのトランジションが自動運転普及への大きなステップになるでしょう。①自動運転車ラインアップの拡充、②自動運転システムコストの低減、③センサー技術の革新、④消費者の自動運転技術の受容性、⑤インフラ整備・法規制、などの条件がバランスよく実現され、技術・社会・収益面でのハードルを乗り越えられれば、2020年の自動車販売台数では0%だったレベル3以上の搭載車が、2030年には約15%を占めるようになると当社は予想しています。また自動運転の拡大に伴い、ソフトウエアの付加価値も大きく上昇し、自動運転に関わる1台当たりのソフトウエアコストは、車両原価の2%(2020年)から2030年にはレベル3車両の11%まで上昇する見通しです。
なぜ自動車業界でソフトウエアが重要なのか?
今後の自動車市場における競争の次元は、エンジンやトランスミッションなど機械的なハードウエアから、顧客満足度を上げる効率的かつ実用的なソフトウエアの搭載へとシフトすると考えられます。電動化による車両制御と自動運転化の拡大によって、自動車1台当たりのソフトウエアコード数は2015年の1億行に対して2020年には2億行に拡大し、2025年に向けては6.5億行まで増加する見通しです。これは、一般的なスマホOSや戦闘機の平均的なコード数2000-4000万行に対して桁が違う複雑性を持つことに関係しています。またレベル3相当以上の自動運転の普及が本格化する局面では、人の生命に関わる事故につながるリスクと隣り合わせである商品の特性上、ソフトウェアの品質問題も課題として浮上するでしょう。
電気自動車(EV)と自動運転との関係性は?
EVの普及は各国の規制と補助金の後押しを受けて加速しています。当社では2020年に3%だったEV販売比率が2030年には33%、2040年には61%に達すると予想しており、当面の普及ペースは自動運転普及ペースを上回るでしょう。一方で自動運転は交通事故の予防、渋滞緩和やドライバー不足の解消などさまざまな社会問題の解決という使命も抱えていますが、消費者主導での市場形成が基本となると考えています。しかしEVと自動運転技術の親和性は車両/顧客特性ともに高く、レベル3以上の技術・法整備が確立されれば、5~10年の時間差でEV普及に自動運転普及が追いつく可能性が高いと考えられます。
自動運転普及のカギは?
自動運転普及には、ハードウェア・ソフトウェア両面でのコストダウンが求められます。当社では2025年時点の1台当たりシステムコストを、レベル1で600ドル、レベル2で1900ドル、レベル3で6400ドルと予想しています。量産効果や技術革新そしてソフトウェアの効率性改善を加味すれば、2030年時点ではレベル1で500ドル、レベル2で1500ドル、レベル3で4800ドルまで削減することが可能でしょう。自家用車としての普及を目指すには、少なくとも1台当たり5000ドルまでのコストイノベーションが必要と考えています。
電動化と自動運転化で自動車産業の収益性は低下してしまうのか?
自動車メーカーを取り巻く事業環境は電動化と自動運転化によって大きく変化しており、それに伴って業界の収入や収益の構造にも変化がみられています。伝統的な完成車メーカーにとって現在のEVは高コストですが、EVをグローバルプラットフォームとしてより柔軟に活用できれば、規模の経済でコスト削減につながります。ただし現状ではそのレベルには達しておらず、2020年から2030年にかけてソフトウエアの付加価値アップも含めて車両コストは単純計算で約19%増加すると試算しています。一方で顧客に新たな付加価値を提供し、新たな収益機会を捉えることができれば、1台当たり収益は従来の1750ドルを上回る3750ドルの収益機会があると試算しています。
Our weekly newsletter with insights and intelligence from across the firm
By submitting this information, you agree to receive marketing emails from Goldman Sachs and accept our privacy policy. You can opt-out at any time.