投資家はコロナ後の世界をどのように捉えればいいのでしょうか。コロナ後を生き抜くための新たな投資フレームワークについて、ゴールドマン・サックスのシニア・アドバイザーであるスティーブ・ストロンギンが解説します。
コロナ後の世界で投資家が考えるべきことは
コロナショックは経済全体をリセットするような事象になりました。市場はビジネスモデルがすでに機能しなくなっている企業を見出し、より有望なビジネスモデルを持つ新しい企業を評価するでしょう。ウイルスがもたらしたディスラプションに対する経済的支援策は、コロナ禍を生き抜いた勝ち組企業の成功を強化・拡大するとともに、負け組企業に改革を促し、必要な改革を実行できない企業に取って代わる新規参入企業に資金を提供することではないでしょうか。
コロナ後の投資を考えるに当っては、競争環境の構造的変化を捉えた3つの局面と、これらの局面にわたって変化をもたらす4つの主要テーマに分けることが一つの有効なフレームワークと考えています。
3つの局面とは?
コロナ後の世界における投資は、「維持」(preservation)、「統合・強化」(consolidation)、「革新」(innovation) の3つのフェーズに分けて考えることができると思います。これらのフェーズは相互に重なり合っていますが、企業の競争優位性が持続可能なものか、あるいは単なる一時的なものなのかを見極めることが重要になるでしょう。
まず「維持」のフェーズでは、投資家、各国政府ともに資金調達とバランスシートの修復に集中する傾向にあります。ある時点までは最も適切ですが、状況が明確になるにつれてまったく間違った戦略にもなりえます。2つ目の「統合・強化」フェーズでは、実際にコロナ後の世界で優れた成果を上げた企業とそれ以外の企業との差別化が進行するでしょう。このフェーズでは多くの変化が生じますが、実際に新しいものが登場するのではなく、既存の技術やシェアが企業間で移動するに過ぎません。しかし「革新」のフェーズに移っていくと、事業上の問題点が根本的に変化し、新たなソリューションに対するニーズとその潜在的な価値が高まることで、投資対象の幅が広がる局面となります。
4つの主要テーマとは?
環境の変化を促す4つの主要テーマとは(1)システムのストレス耐性 (resiliency)、(2)不可逆的新習慣 (sticky learning)、(3)リスク許容度別市場セグメンテーション (risk based market segmentation)、(4)規制の再設定 (regulatory resets)です。
(1)は、コロナ後の世界では信頼性に対してこれまでよりも大きな価値が置かれ、企業には、非常事態に耐えられる、あるいは混乱からのリバランシング能力を兼ね備えていることが求められるということです。(2)は、コロナショックによって、多くの人がオンライン診療やネットバンキングなどの新たな機能やサービスに初めて触れたことで、この経験や新習慣が土台となり、今後新たな選択を促すというプロセスを指しています。(3)は身体的、社会的あるいは経済的に脆弱な立場に置かれている少数派グループと、人口の大半を占める多数派グループの2つが、それぞれが異なるリスク選好度に応じて行動や出費を決めるということです。(4)の「規制の再設定」は、法規制の構造が大きく変化することで、新たな事業機会が生まれるとともに多くが消滅するという予想です。
この4つのテーマの中で経済への影響力が最も大きいと思われるのはストレス耐性です。コロナ禍でサプライチェーンの寸断、コンピューターシステムのダウン、不十分な在宅勤務体制などが明らかになり、今後はストレス下でも十分に機能するシステムの価値が高まり、脆弱性を排除するための投資や改革が加速すると見ています。
ストレス耐性の影響力が最も大きい理由は。
不動産を例にとってみましょう。人と人の間の距離を確保するためのソーシャル・ディスタンシングは一部の企業による不動産需要を高める可能性がある一方、在宅勤務やテレワークの普及によりオフィスや店舗での業務からリモートに切り替えやすくなったのも事実です。また住宅に関しても、郊外や田舎などの低密度地域は新型コロナウイルスの感染リスクが低くなるかもしれませんが、医療機関の選択肢が都市部に比べて劣ることも考えられます。一方、リスク許容度の高い人たちにとっての住む場所の選択は、人口密度よりも単に機会とコストによって決められるでしょう。
複雑な問題には通常、複雑な解決策が必要です。企業は新しい最良の解決策を迅速に見つけなければなりません。つまり柔軟性、弾力性、専門性の高い企業が最終的に勝者になるということでしょう。停滞したままの企業や支配力を維持して不確実性に対応しようとする企業は負け組となるでしょう。ワクチン開発をはじめとした医療の進歩の見通しと、新たなリスクや法改正による責任の所在など様々な方向性が明確になるまで、当面は変化に機敏に対応できる弾力性、すなわちresiliencyがおそらく最も重要なテーマと考えているのです。
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